モレ・サン・ドニ村に本拠を置くドメーヌ・セシル・トランブレイの起源は、1921年にアンリ・ジャイエの叔父であり、元樽職人のエドゥアルド・ジャイエが創設したドメーヌに遡ります。畑はエドゥアルドの妻の実家から受け継がれ、後に娘(セシルの祖母)へと相続。1950年には、この畑を親族であるミシェル・ノエラに対し、メタヤージュという形で貸し出されました。
2000年、地代の支払いがワインからブドウに変わったことを機に、セシルは家族の畑を引き継ぐことを決意。2003年、貸与していた畑の一部(約3ha)の契約終了に伴い、自身のドメーヌを設立しました。その後も段階的に畑の返還を受け、ヴォーヌ・ロマネやジュヴレ・シャンベルタンなど特級畑を含む約7.2haを所有するに至ります。
設立当初から畑はビオロジックで管理され、2016年からはビオディナミへ完全移行。さらに、マッサール・セレクションによる古樹の保全や、一部での馬耕、剪定法や仕立ての高さ、トレサージュ(枝を切らずに巻く方法)など多彩な農法を積極的に導入し、気候変動への対応力も高めています。2022年には、モレ・サン・ドニやヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュ〈ボー・モン〉など約3haの新たな畑を迎えると共に、醸造設備とセラーの大幅な拡張を実施。ドメーヌはよりピュアで繊細なテロワール表現を追求するステージへと進化しました。
醸造面でも、低温かつ長めのマセラシオンを基調に、ピジャージュやルモンタージュは控えめ、または行わない年も。全房発酵の比率はヴィンテージごとに調整され、新樽比率も年々見直され減少傾向にあります。澱引きを行わずそのまま熟成させ、清澄やフィルター処理は行わず、必要最小限の亜硫酸のみを使用。瓶詰めにはナチュラルな風合いのサルデーニャ産コルクを採用しています。そのスタイルは、過度な抽出を避け、フィネスとピュアさを際立たせたエレガントな味わい。華やかさと気品が共存するそのワインは、ワイン評論家ミシェル・ベタンヌから「次世代のラルー・ビーズ・ルロワ」と絶賛され、2025年版『ル・メイユール・ヴァン・ド・フランス』で2ツ星を獲得するなど、高い評価を受けています。
アンリ・ジャイエの血筋という背景に注目が集まりがちですが、セシル・トランブレイはその伝統に甘んじることなく、自らの感性と研鑽によってブルゴーニュの未来を切り拓く、新時代を代表する生産者のひとりとして確固たる地位を築いています。