1889年、ジャン=バティスト・ラエルトがシャヴォ村に創業した家族経営のドメーヌ。現在は7代目のオーレリアン・ラエルトが中心となり、父ティエリーとともに、ナチュラルでテロワールを映し出すシャンパーニュ造りに取り組んでいます。オーレリアンは、RM生産者の第二世代の中核的な存在としても知られています。
所有畑はエペルネ南部を中心に、ヴァレ・ド・ラ・マルヌやコート・デ・ブランを含む10村、75区画に広がり、多彩なテロワールからシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエのほか、フロモントー、プティ・メリエ、ピノ・ブラン、アルバンヌといった希少な古代品種も栽培しています。特に、晩熟で低収量という理由で見捨てられがちなプティ・メリエやアルバンヌに注力し、その可能性を追求しています。樹齢70年を超える古木が残る区画もあり、ブドウの根が白亜質土壌の奥深くまで伸びることで、豊かなミネラル感と奥行きのある果実を実らせています。
2005年から本格的にビオディナミを導入し、現在は全体の約7割をビオディナミ、残りもリュット・レゾネで管理。畑作業の多くを手作業で行い、健全で自然なブドウ栽培を追求しています。また、卓越した品質を次世代につなぐため、「セレクション・マサル」によって同じ古木の遺伝子を持つ苗木を、同じ根に接ぎ木する形で植え替えています。
収穫後は、シャヴォ村にある伝統的な垂直式プレス機で即日圧搾。約7割のワインを樽で醸造する、今日では数少ないドメーヌの一つです。使用する樽は、祖父母の代から受け継がれてきたものに加え、フランソワ・フレールやスガン・モローといった名門樽職人が手掛けたブルゴーニュ樽。ヴィンテージや区画ごとに丁寧に仕込み、それぞれの個性を引き出しています。瓶内熟成は24ヶ月以上、ヴィンテージものは4年以上、ドザージュも4~8g/Lに抑えることで、テロワールの魅力を際立たせています。
数あるキュヴェの中でも、「レ・ヴィーニュ・ドートルフォワ」は1948~1960年に植樹された木から、「レ・ロング・ヴォワ」は1965年と1970年植樹の木のみから造られるなど、古木へのこだわりは並外れています。
さらに挑戦的な試みとして、古代品種のプティ・メリエ、アルバンヌに、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、そしてシャンパーニュの主要3品種を加えて醸造する「レ・セット・セパージュ」があります。栽培の難しさと低収量ゆえに失われつつあった2つの古代品種の魅力を、情熱と忍耐で見事に引き出したこのキュヴェは、シャンパーニュの未来を照らす、象徴的な1本といえるでしょう。